NHK COSMIC FRONT
コズミック・フロント 発見!驚異の大宇宙『IMPACT迫りくる天体衝突』
今回の舞台はハワイマウイ島、標高3055mのハレアカラ山頂の天文台です・・ここでは、地球に衝突する天体は無いか日々探索しています。
突如、地球に迫り来る天体、その恐怖とパニックは多くのSF映画で描かれてきました・・しかし天体衝突は現実のものだと科学者たちは言います。
2006年12月、NASAは270ページに及ぶ詳細なレポートを議会に提出しました。そこに記されていたのは、地球が天体衝突の危機に晒されているという事実・・将来地球に衝突する恐れのある彗星や小惑星などの小天体は20,000個にのぼるというのです。
NASA ジェット推進研究所 ドン・ヨーマンズ博士
「小さな天体でも衝突擦れば私たちの文明を消し去ってしまう可能性を持っています。ですから私たちは空を監視し、文明を終わらせるような危険な天体を探し出して追跡しなければなりません」
パンスターズ天文台 総責任者 ケン・チャンバース博士
「天体衝突は必ず起こります。脅威は本物です・・問題は、もしもではなく、いつ落ちるかです」
Front1 危うい惑星 地球
地球を守るため世界中の天文学者が協力し、危険な小天体の発見に力を注ぎ始めています・・そんな中、新たな脅威が見つかりました・・2029年に地球に衝突する危険のある小惑星が発見されたのです。
ハワイ大学 デビッド・ソーレン博士
「もしこの小惑星が衝突すれば被害は甚大です・・衝突した場所は広範囲にわたって完全に消滅してしまうでしょう」
流れ星は、砂粒や小石ほどの極小さな天体が地球に衝突した時に見える現象で頻繁に起こっています。
1992年、ウエストバージニア州に突然現れた炎の塊は北東の方角へ落下して行きました・・同じ時刻、フットボール場でも落下の瞬間が撮影されています。
2004年、スペインで目撃された流れ星は、昼間でも見えるほど輝きました。しかし、流れ星を起こす天体は、ごく小さいので地上に落ちる前に燃え尽き被害をもたらす事はありません。
Front2 謎の大爆発 ツングースカ
1908年6月30日、シベリア・ツングースカで巨大な爆発が起こりました・・調査に入ったロシア科学アカデミーは驚くべき光景を目にします。
全ての木が同じ向きに倒れていました。被害の範囲は2000平方キロメートル、東京都と同じ面積です・・しかも木の倒れている方向は、ある地点を中心に放射状になっていました・・爆発の原因は小惑星の衝突だったのです。
アメリカ サンディア国立研究所 マーク・ボスロウ博士
「昔のロシア人の探検家の写真や調査などからどのくらいの範囲の木がどのように倒れているか知る事が出来ました・・実際に爆発現象の規模から小惑星の大きさを逆算しました」
ボスロウ博士はツングースカの大爆発を起こさせた小惑星の大きさは、直径50mと断定しました・・およそ50mの小惑星が秒速15キロという猛スピードで地球の大気に突入してきます。
小惑星は上空8500mで爆発、その際、中心部は摂氏24,700℃の高温になり、破片は一瞬で蒸発しました・・爆発のエネルギーは衝撃波となって地面に広がり木々をなぎ倒し、地上に大被害をもたらしたのです・・50mの小惑星でも破壊力は水爆に匹敵します。
ボローニャ大学 ジュゼッペ・ロンゴ教授
「ツングースカは北緯60度にあります。同じ緯度に当時の首都サンクトペテルブルグもあります・・ご存知のように地球は自転しています」
「ですからツングースカの小惑星が4時間ほど遅く地球に到着していたら首都サンクトペテルブルグは消滅していたのです。・・街がなければあのロシア革命も起こらなかったはずです・・小惑星の到達が4時間ほど遅れるだけで20世紀の歴史が今とはまるで違うものになっていたでしょう」
小惑星はなぜ地球に接近してくるのでしょうか?・・火星と木星の軌道の間、そこは小惑星帯、メインベルトと呼ばれています。
ここを漂う小惑星の数は、数十万個~数百万個あると考えられます・・しかし、その多くは火星の外側の軌道を回り、地球に近づく事はありません。
ところが中には、木星や火星などの重力の影響で軌道が変わり、太陽系の内側に向かって行くものがあります・・この地球に接近する小惑星こそが衝突する可能性の高い危険な天体です。
実際にかつて小惑星が地球に衝突した跡が地表に刻まれています。
オーストラリアの中央部にあるゴスズ・ブラッフ・クレーター、直径は22キロ、1億4000万年前に天体衝突により作られました。
アメリカ・アリゾナ州、バリンジャー・クレーター、直径1.2キロ、5万年前に出来たものです・・地球の長い歴史の中では幾度も天体衝突が起こってきました。
現在確認されているだけでクレーターの数は176にのぼっています。
中でも最大の被害をもたらした小惑星の衝突は、メキシコ・ユカタン半島・・その地下には直径170キロの巨大クレーターが埋まっています。
天体衝突が起こったのは6550万年前、白亜紀、恐竜全盛の時代です・・直径10キロの小惑星が地球に衝突、巨大な爆発・炎が恐竜を襲います。更に巻き上げられた塵により太陽の光が遮られ寒冷化し恐竜は絶滅しました。
この様な地球規模の生物の大絶滅を引き起こす直径10㎞サイズの天体の衝突は、1億年に1度あると見積もられています。
その1/10、1㎞サイズの天体が衝突すれば全面核戦争に匹敵する被害をもたらし、文明は危機に晒されます・・その頻度は数10万年に1度。
更に小さな100mほどの天体の衝突でも大都市が消滅するほどの大惨事を引き起こします・・その頻度は、数100年に1度だと科学者は予想しています。
天体衝突は、私達が今だ経験した事のない被害をもたらすのです。
Front3 危機は突然やってきた
2004年クリスマス、驚くべきニュースが世界を駆け巡りました。
NHKニュース9(2004年12月24日放送)
「NASAアメリカ航空宇宙局は、23日、およそ直径400mの小惑星が25年後の2029年4月13日に地球と衝突する確率が1/300あると発表しました」
小惑星の地球との衝突が現実の問題として発表されたのです・・その危険な小惑星を発見した人物は、ハワイ大学の天文学者、デビッド・ソーレン博士です。これまで実に1000個以上の小惑星を発見してきました。
2004年6月19日、ソーレン博士は、ある小惑星を発見しました・・しかし発見から2日後、見失ってしまいます・・ソーレン博士は半年間、この小惑星を探し続けました。
そして12月18日、小惑星は再び捉えられます・・ここ時の位置と前回観測した位置から小惑星の軌道が計算されました。すると2029年。1/300の確率で地球と衝突する事がわかりました。
直径400m、重さ7200万トンの小惑星にソーレン博士は、『アポフィス』と名付けました・・エジプト神話における破壊の神を意味し、闇と混沌を象徴する存在です。
この日から世界中の天文台がアポフィスの観測を始めました。
ハワイ大学 デビッド・ソーレン博士
「このニュースが流れたのはクリスマスシーズンでした。多くの天文学者は自宅で家族と過ごす代りに望遠鏡のそばでこの小惑星の位置を計算していました・・私の同僚は、クリスマスが台無しだとぼやいていました」
世界中の望遠鏡がアポフィスに向けられ正確な軌道がわかってきました・・その結果、クリスマスイブから3日後の27日、衝突の確率は1/37にまで上昇したのです。
地球に小惑星が衝突し、大きな被害を及ぼす。それがいっそう現実味を帯びてきました・・アポフィスが落ちると直径4㎞のクレーターが出来ます。
衝撃波により、数千平方キロメートルの範囲が壊滅します・・これは、マンハッタンを中心とするニューヨーク全域に及びます。
アポフィスが衝突した場合、その影響は、落下地点だけにとどまりません。
天体衝突を研究している東京大学教授の杉田精司さん
「衝突で巻き上げられた塵が大気中に滞留してしまい、大気の中に微粒子が漂ってしまうため太陽の光を遮り、長期間にわたって気候変動を及ぼしてしまします・・数カ月から年単位での長期化が予想されます」
アポフィスが地球に衝突すれば最大で30億トンの塵が成層圏まで巻き上げられ、その一部は3ヶ月間大気中を漂い太陽光を遮り、地球を寒冷化させる・・杉田教授はそう予測しているのです。
1991年6月、ピナツボ火山の噴火では、3億トンの塵が成層圏まで巻きあがり、結果地表に到達する太陽光は5%減少し、北半球の平均気温は0.6度下がりました。
もしアポフィスが衝突すれば、ピナツボ火山の10倍の塵が成層圏まで舞い上がります・・その被害は図り知れません。
全世界から発見された小惑星の全ての情報が集まってくるマイナープラネットセンター(アメリカ・マサチューセッツ州)20万個以上の小惑星のデータを管理しています。
アポフィス発見の知らせが入ってから世界中の天文台にマイナープラネットセンターはアポフィスの追跡観測を要請しました・・衝突するか否かは極めて高いデータを必要とするからです。
マイナープラネットセンター 情報担当 ガレス・ウィリアムズさん
「将来どんな軌道になるかを正確に予想しなければなりません・・その為にはより長い期間の観測が不可欠です。もし地球にやってくる天体を発見したら出来るだけ長い期間追跡する・・これが決め手です」
そして世界中の天文台がアポフィスに狙いを定めました・・各国の天文学者からの観測データを基に正確な軌道計算が行われました。
・・その結果は・・2029年、地球の32,500㎞上空ををかすめて通過する事がわかりました。これは静止衛星より地球に近い軌道です。間一髪、地球は天体衝突の危機を免れたのです。
Front4 小惑星を捕捉せよ
地球に迫りくる小惑星は、アポフィスだけではありません・・小惑星の軌道を研究している宇宙航空研究開発機構 吉川真 准教授は、小惑星は遠からず地球に衝突すると警鐘を鳴らしています。
吉川准教授は、地球の近くを回る小惑星の軌道を正確に計算しました・・その結果です。黄色い線が地球の軌道、その周りにあるのが5700個の小惑星です。
それぞれを観測からわかった軌道にしたがって動かします。赤く光っているのは地球と小惑星が交差するところです。
吉川准教授の計算では、地球に接近する小惑星の内、衝突する可能性のあるものは、わかっているだけで205個・・未発見の小惑星を合わせればいつ衝突してもおかしくないのです。
地球に衝突する未知の小惑星を発見する為にイタリアでスペースガード財団が設立されました・・日本・アメリカ・イギリス・オーストラリア・ドイツ・フィンランド・イタリアなど世界7カ国の天文台が参加しました。
日本で参加しているのが岡山県井原市の美星スペースガードセンターです・・2台の望遠鏡を使って地球に迫りくる小惑星を探索してその姿を撮影しています・・一晩で撮影する枚数は、300枚~400枚、これまで1000個以上の小惑星を発見する成果を上げています。
アポロ9号に乗り、天体衝突の脅威を肌で感じたラッセル・シュワイカートさんは、B612財団を設立します。B612とは、小説『星の王子様』に出てくる小惑星の名前です。
シュワイカートさんは、講演会などで発言します・・”将来必ず小惑星の衝突は起こる”・・”しかし人類が力を合わせれば防ぐ事は出来る”・・と訴え続けました。
アポロ9号 宇宙飛行士 ラッセル・シュワイカートさん
「10年前だったら小惑星が地球に衝突する事を話したとたんみんなが笑いだしました・・しかし私達がこの課題に取り組みつづけた事で笑う人はいなくなりました・・天体衝突が深刻な問題であり、膨大な被害を及ぼす災害である事に誰もが気付き始めているのです」
2008年、シュワイカートさんは、国連の宇宙空間平和利用委員会に出席し天体衝突の危機を訴えました・・更にアメリカ議会での公聴会でも発言を続けました。
国連が天体衝突についてまとめた報告書ですシュワイカートさんの呼びかけに日本人をはじめ世界の科学者が賛同し作成したものです。
シュワイカートさんの思いは少しずつ届きつつあります。
アポロ9号 宇宙飛行士 ラッセル・シュワイカートさん
「問題は次の世代の人の事をどれだけ心配するかです・・孫の世代を守るために私たちは、今すぐアクションを起こすべきです・・これは人類の生き残りの為なのです」
Front5 天体衝突を回避せよ
アメリカ政府も国を上げて天体衝突を回避する対策に乗り出しています・・ハワイマウイ島、標高3055mのハレアカラ山頂に、2008年アメリカ政府は新たに天文台を建設しました。
パンスターズ天文台です・・小惑星の観測の為に特別に設計されたものです。この望遠鏡を使えば一度に満月36個分と言う空の広い範囲を観測できます・・そのため僅か一週間でここから見える空の全てを観測できるのです」
パンスターズ天文台 総責任者 ケン・チャンバースさん
「パンスターズの望遠鏡は、見た目は小さいのですがある意味、世界最大の望遠鏡です・・と言うのも40センチもある巨大なCCDを用いたカメラが取り付けられているからです」
パンスターズ専用に開発されたこのCCDカメラにより、アポフィスを発見した望遠鏡より、100倍も暗い天体までとらえる事が出来るのです。
パンスターズ天文台 総責任者 ケン・チャンバースさん
「地球上の生命を脅かす小惑星で未知の物がまだまだ沢山あります・・しかもまだ我々はそれらを見つけてはいません・・パンスターズの目標は、この数年のうちに破滅的な被害をもたらす未知の小惑星のほとんどを見つけ出す事です」
パンスターズ天文台では、3年半の間に数十万個もの新たな小惑星を発見する事を計画しています・・では実際に地球に近づいてくる小惑星が発見された時、どう対応するのかアメリカでは対応策も立てられ始めています。
NASA ジェット推進研究所 ドン・ヨーマンズ博士
「対応策の一つを私たちはディープインパクト計画で実証しました」
2005年1月、NASAが行った壮大な宇宙実験、ディープインパクト計画・・それは秒速10キロメートルの猛スピードで動くテンペル第一彗星に向けて探査機からインパクターと呼ばれる弾丸をぶつけるものでした。
超高速で動く小天体に88万km離れた地点からインパクターを発射し命中させるという極めて難しい計画です・・しかも標的の彗星は、地球から1億3300㎞も離れています。
電波でも片道7分以上を擁します・・地球からの遠隔操作は出来ません・・遥か遠くで標的に命中させるためインパクターはカメラで目標の天体をとらえ自ら判断して飛行します。
衝突の2時間前、この時点からインパクターは地球からの指示を一切受けることなく目標を目指します・・インパクターは、自ら判断して軌道を修正して行きます・・3回の軌道修正を行い見事目標に命中します。
遥か遠くにある超高速で動く小天体にインパクターを当てる事が出来ると実証したのです。
NASA ジェット推進研究所 ドン・ヨーマンズ博士
「ディープインパクト計画で地球に迫りくる小天体に対してインパクターをぶつける事が技術的に可能であると実証しました・・数10年後に地球に衝突するとわかったらインパクターをぶつけて速度を落とし、軌道を変える時間的余裕があれば天体衝突は回避できるのです」
2006年、ヨーマンズさん達が中心となって作成したNASAの天体衝突に関するレポート『衝突天体の発見と回避策の検討』、そこには小惑星の軌道を変える為の具体的な方法が記されています。
重さ15トンのこの宇宙船は、太陽光をエネルギー源としたプラズマエンジンを搭載しています・・小惑星を長時間押し続ける事で軌道をずらし地球への衝突を回避するという計画です。
ヨーマンズさん達をはじめNASAの科学者は、十分な時間さえあればこのようにして天体衝突から地球を守る事は可能だと考えています。
パンスターズ天文台 総責任者 ケン・チャンバースさん
「こちらが1号機です。我々はこのドーム内に2つ目の望遠鏡を設置する事を計画しています」
アメリカ政府はパンサターズ計画に総額1億ドルをかけ、今後更に観測のシステムを拡充して行く予定です・・2008年から稼働している1号機の横に2014年までにもう一基望遠鏡を設置します。
その後更に3号機、4号機の建設計画も決まっています。
パンスターズ天文台 総責任者 ケン・チャンバースさん
「仮に地球に衝突する小惑星を見つけたとしましょう・・100年後に衝突する小惑星ならそれまでに有効な手立てをする事が出来ます・・もし10年後に衝突すると予測されたとしても対策は可能なはずです・・全世界が一丸となって危機に立ち向かえば必ず回避出来るでしょう」
望遠鏡を4台に増やす事で観測スピードは格段に向上し、より早期に危険な天体をとらえる事が出来るようになります。
宇宙の中に地球がある限り、避ける事が出来ない天体衝突、一度衝突すれば私たちの文明そのものが消え去るかも知れません・・しかし今、人類はその危険な天体をあらかじめ見つけ更に回避する手段も手に入れつつあるのです。