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旅行会社の元社員が書く旅日記です…観光情報、現地の楽しみ方、穴場スポットなどを紹介します。

大冒険!はやぶさ 太陽系の起源をみた~発見!驚異の大宇宙SP

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NHK コズミックフロント ~発見!驚異の大宇宙SP
大冒険!はやぶさ 太陽系の起源をみた

2010年6月、オーストラリア・ウーメラ砂漠、普段は訪れる人も少ないこの地に世界中の注目が集まりました・・日本の探査機「はやぶさ」が7年間の旅を終えて地球に戻ってきたのです。

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大気圏突入で燃え尽きる炎、しかし一筋の光が残ります。カプセルです・・はやぶさが地球に送り届けたカプセル、これが宇宙探究の歴史に新たなページを付け加えました。

その中には、3億キロ彼方で採取した小惑星のかけらが入っていました・・小惑星に着地し、その物質を持ちかえったのは世界で初めての快挙です。

しかし、ここに至るまでには様々なドラマがありました…
・通信が途絶えはやぶさが行方不明に
・全てのエンジンの寿命が尽き停止
など何度も絶体絶命のピンチに陥りました・・

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JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
「ここで終わるわけにはいかないとやれるだけの事やってみようと諦めるのは簡単ですけど・・あとで全く後悔しないようにしておきたかった」

プロジェクトのメンバー達はピンチの度に知恵を出し合い幾多の困難を乗り越えました・・しかし、はやぶさの快挙は冒険を成し遂げた事だけでは終わりません・・実は、はやぶさが訪れた小惑星は太陽系が誕生した46億年前の情報を今に残すタイムカプセルなのです。

つまり小惑星を調べれば太陽系の起源に迫れるのです・・科学者たちは、はやぶさがとらえた小惑星の1500枚を超える画像とカプセルで持ち帰ったかけらを最新鋭の機器で分析、今、想像を超える事実が明らかになっています。


FRONT1 過酷な宇宙へ

2003年5月9日、探査機はやぶさが打ち上げられました。はやぶさに課せられたミッションそれは、小惑星サンプルリターンです・・サンプルとは小惑星の欠片、リターンとは、それを地球に持ち帰ること・・これまでどの探査機も成功した事の無いミッションです。

ターゲットとして選ばれたのは、小惑星イトカワ、推定500m、あまりの小ささに地上からでは、その実態はほとんどわかりません。

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イトカワは一年半の周期で太陽を回る小惑星です・・計画では、はやぶさ
2003年5月 地球を出発
2004年5月 1年後、地球の公転運動と重力を使って加速するスイングバイを行います
2005年6月 イトカワに到着しサンプルを採取
2005年10月 イトカワを出発
2007年7月 2年後に地球に帰還

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はやぶさの機体です。
高さ3m、幅6m、奥行き4.2m

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翼のように広げているのは太陽電池パネル、はやぶさの電力は、このパネルを太陽に向ける事で供給されます・・地球との通信は3つのアンテナを使って行われます・・カメラは機体の回りに4台取り付けられています。

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下に突き出ているのは、サンプラーホーンこれでイトカワのカケラを採取します。

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イオンエンジン、4年に渡る長期間の飛行を成し遂げるために開発されました・・元々イオンエンジンは衛星の姿勢を制御する補助のエンジンでした。

しかしJAXA宇宙科学研究所は、これを15年がかりでメインエンジンに育て上げてのです・・長期間の宇宙飛行に有利だからです。

従来のメインエンジン・科学エンジンは、燃料と酸化剤を燃やした化学反応がエネルギー源です・・推力は大きいものの重い燃料と酸化剤を運ぶ必要があります。

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一方、イオンエンジンはキセノンガスをイオン化し、プラスのイオンがマイナスの電気に引き寄せられ、放出する事で推進力を引き出します。

太陽電池が発電した電気をエネルギー源にするため酸化剤が不要で軽いキセノンガスを運ぶだけで良いのです・・力は弱いのですが真空の宇宙空間では長時間噴射し続ければ、秒速30キロを超える超高速を実現することが出来るのです。

JAXA 宇宙科学研究所 國中均 教授
イオンエンジンは推力が小さいですけれども燃費が良いというのを最大の特徴としていますので1年でも2年でも連続噴射をすることができます・・宇宙には大気も無く、摩擦抵抗もありませんから弱い力でもそれを積み重ねれば大変速い速度になるのです」

しかしイオンエンジンを4年間もメインエンジンとして使い続けた事はありません・・はやぶさは、その宇宙飛行事態が誰も試みた事の無い壮大な挑戦だったのです。

地球出発から半年後、はやぶさに最初の試練が訪れます・・2003年11月4日、観測史上最大の太陽フレアが発生しました・・太陽フレアは太陽系で最大の爆発現象です。

高エネルギーの粒子が大量に放出されます・・その規模は水素爆弾1億個、史上最大の爆発です・・この影響で地球を回っている衛星はいくつも壊れました・・はやぶさ太陽電池の出力が不連続に数パーセント落ちましたが致命的な故障は免れたのです。

はやぶさは、最初の試練を運よく乗り越え小惑星イトカワへ向かいます。

 

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FRONT2 小惑星はタイムカプセル

私たちのいる太陽系、内側には、水星・金星・地球・火星と岩石でできた惑星が並びます・・その外側にはイトカワのような小惑星が数100万個回っています。

更に外側には直径が地球の10倍以上もある木星の他、土星天王星海王星といった巨大な惑星が並びます・・こうした太陽系はどのように生まれたのでしょうか。

国立天文台の小久保さんは46億年前に太陽系がどのようにして生まれたのかコンピュータシュミレーションで迫っています。

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国立天文台 小久保英一郎 准教授
「この両側にあるのが太陽系の起源の計算に使っているGRAPE(グレープ)というスーパーコンピュータです・・しかし、これは何でもできるスーパーコンピュータではなくて星の重力でお互いに引き合って動く、それだけを計算する事が出来るスーパーコンピュータです・・この分野では世界最高水準です」

小久保さんは今、太陽系形成の最初の様子をコンピュータの中で再現しているのです。

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今から46億年前、太陽が生まれ、その材料であるチリとガスの一部が円盤状に残りました・・この円盤から惑星が生まれます。

小久保さんのシュミレーションでは、最初は均一だった塵にむらが生じます・・時間とともに、むらは次第に大きくなります。そして10万年後、大きさ数キロの微惑星が生まれ、微惑星同士の衝突・合体が始まります。

数100万年後、直径1000キロを超える天体・原始惑星が誕生します・・更に原始惑星同士が互いの引力で接近し大衝突を起こします。

こうして太陽系誕生から1億年かけて地球サイズの惑星が誕生したのです・・シュミレーションで解き明かされた太陽系誕生のプロセス、しかしまだ未解決の謎が数多くあります。

国立天文台 小久保英一郎 准教授
「太陽系の起源で残されている問題というのは、実はまだ沢山あるのです・・たとえば水星・金星・地球と大きくなって行くのに次の火星は小さいのか・・これも説明できません」

「更に外を見ると木星があります。しかし我々が計算してシュミレーションしてみるともっと内側に来なければおかしいのです」

今も残る太陽系誕生の謎、これを解き明かすためには探査機で小惑星を訪ね直接調べる事が必要だと小久保さんは言います。

小惑星は主に火星と木星の間にある天体です。小さな岩石程度のものから数百キロの大きなものまで数百万個存在します。

小惑星は惑星に成長する事無く残った天体です・・ですから惑星が誕生する前の46億年前の情報を今にとどめているのです・・いわば太陽系誕生の謎を解く ”タイムカプセル” なのです。

国立天文台 小久保英一郎 准教授
小惑星の物質を持ってきて詳しく分析できれば、環境がどうだったかが推測できます・・温度、圧力など昔の太陽系の記憶をとどめている太陽系の化石みたいな存在です・・昔を知る手掛かりとして小惑星は大変重要だと考えます」

2004年5月19日、小惑星イトカワに辿りつくため、はやぶさは地球の公転運動と重力を使って加速するスイングバイを実施、秒速34キロという猛スピードで一路イトカワを目指しました。


FRONT3 3億キロの壁

沢山ある小惑星の中でイトカワが選ばれた理由、それはイトカワがユニークな軌道を持つからです・・3年に一度イトカワは地球に近づきます。

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このタイミングを上手く使えば地球との往復が可能です・・一方、難しい点もあります。イトカワへの到着が地球から3億キロも離れた位置になってしまう事です。

たとえばはやぶさが月の距離にいると38万キロなので電波は2.5秒で往復出来ます・・しかし3億キロも離れてしまうと電波でも往復40分もかかるのです。

この3億キロという距離は更なる問題を引き起こします・・はやぶさがいる位置が正確に分からないというのです。

普通探査機の位置は地球からの電波のやり取りで計測されます・・この誤差は角度にして1/20000度、たとえばはやぶさが月の近くにいる場合、400mの誤差で位置を特定する事が出来ます。

しかし、はやぶさが3億キロも離れてしまうと誤差は300キロに拡大、これでは500mしかないイトカワに辿りつけません。

この難問をどう解決するのか・・はやぶさの軌道決定を担当した吉川真さんたちはアイデアを持っていました。

JAXA 宇宙科学研究所 吉川真 准教授
はやぶさの場合は、イトカワはやぶさのカメラで見ながら最終的には接近する光学航法・オプティカルナビゲーションを使ってやりました」

イトカワ到着のカギ、光学航法・・日本の惑星探査機ではまだためした事の無い方法でした・・はやぶさが3億キロ離れると、電波では300キロの誤差でしか位置が特定できません。

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そこで、はやぶさのカメラでイトカワを撮影します・・するとイトカワから見たはやぶさの方向がわかります・・この2つの情報を合わせればはやぶさの位置がより正確に決定できると考えたのです。

しかし、理論では分かっていても実践した事は一度もありませんでした・・地球出発から813日目、はやぶさが1枚の画像を送ってきました。

吉川さん達は、星の位置が書かれた表と照らし合わせ表に載っていない光る点を探し出しました・・はやぶさイトカワをとらえたのです。

こうした画像を新しく開発したプログラムで解析し、はやぶさの位置を計算しました・・するとそれまで300キロあった誤差は一気に縮小、最終的には僅か1キロの誤差ではやぶさの位置を特定できるようになりました。

初めて成功した光学航法、これによって3億キロ彼方のイトカワに到着する為の大きなハードルを超えたのです。

 

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FRONT4 到着!未知の小惑星

上記画像は、NASAの探査機ガリレオが撮影した小惑星イダです・・長さ60キロ、東京から小田原に届くほどの大きさです・・表面は細かい砂で覆われ隕石の衝突でできたクレーターが沢山見られます。

他にも小惑星ガスプラ長さ18キロにも沢山のクレーターがあり、小惑星エロス、小惑星チルダなど過去に探査された小惑星はいずれも数十キロサイズで小惑星としては例外的に大きな天体です。

これに比べはやぶさが訪れるイトカワは僅か500m、実は小惑星の大多数はイトカワ程度の大きさです・・つまり人類は初めて最もありふれた小惑星の姿を目にする事になるのです。

殆んどの科学者が予想したイトカワの姿も岩盤の一枚岩で沢山のクレーターがあると考えられてきましたが実際のイトカワの姿は驚くべきものでした。

2005年9月、計画より3か月遅れましたが到着の日が近づいて来ました。
2005年9月5日 イトカワまで700キロの地点に到達
2005年9月9日 イトカワまで125キロの地検に到達

はやぶさは、次第に速度を落としてイトカワに接近して行きます。

2005年9月7日 イトカワまで70キロの地検に到達
2005年9月11日 イトカワまで30キロの地検に到達
2005年9月12日 観測のベースとなる20キロの地検に到達

・・ついにイトカワに辿りつきました。・・見事往路を完走、管制室は喜びに沸きました。

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すぐに観測が始まります。はやぶさが初めて明かすイトカワの姿、それは科学者たちを仰天させるものでした。

なんとイトカワには誰もが予想していたクレーターがまったく見えないのです・・更に一枚岩という予想も外れ表面は大小様々な岩石に覆われています・・イトカワはこれまで探査された小惑星とは、まったく異なる姿をしていたのです。

イトカワの大きさは535m、科学者たちは愛着を込めその形からラッコにたとえました・・表面は大きさ数mのごつごつした岩石で覆われています。

クレーターは見当たりませんラッコのお尻の辺りには、イトカワ最大の岩(由野台)があり長さ50m、この付近も岩石ばかりでクレーターは見当たりません。

 

FRONT5 クレーターの謎

なぜクレーターが見当たらないのでしょうか??・・それはイトカワがラブルパイル天体(rubblr piles)といわれるものだったのです・・ラブルパイル天体、それは無数の岩石が重力で寄せ集まったとされる仮想の天体だったのです。

イトカワの質量は3500万トン
体積0.018k㎥
この2つの数字からイトカワの密度は、1.9g/立方センチメートルと確定しました。

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つまりイトカワ内部には40%の隙間があり、ラブルパイル天体に間違いない事がわかったのです・・太陽系形成の過程で存在するとされていましたがこれまでラブルパイル天体が確認された事はありません・・イトカワが初めてです。

はやぶさの観測を基に考えられたイトカワ誕生のプロセスです。
1.イトカワの元となる天体が衝突で破壊されました
2.破片が重力で寄せ集まって行きます
3.やがていくつかの大きな塊が合体
4.その後、小さな岩が降り積もって行きます
5.こうして表面が岩で覆われたイトカワが誕生しました

46億年前から続くダイナミックな太陽系形成の一端を、はやぶさは捉えたのです。


FRONT6 二分された地形の謎

イトカワには、岩だらけの地域と滑らかな地域の全く異なる地域が存在します・・JAXAの矢野創さんは、なぜ僅か500mの小惑星に2つの異なる地形があるかを探っています。

JAXA 宇宙科学研究所 矢野創 助教
「衝突によって震動させて物が動いたと考えられます」

矢野さんが簡単な実験で解説してくれました・・ミックスナッツが入った缶を振り続けます・・缶を開けてみると。

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JAXA 宇宙科学研究所 矢野創 助教
「これがブラジルナッツ・・実は、こうしたいろんな大きさのナッツが入っているところで揺さぶると大きな粒が上に小さなものが下になります・・これをナッツの名前をとってブラジルナッツ現象と呼んでいます」

揺さぶられた事により小さなナッツが大きなナッツの間に入りこみ大きなナッツが押し上げられたのです。

イトカワに2つの異なる地形が出来たプロセスです。
1.隕石の衝突でイトカワが激しく揺すられます
2.すると移動しやすい小さな石がより重力の安定した低い部分に移動します
3.その結果、現在のい姿になったと考えられます

JAXA 宇宙科学研究所 矢野創 助教
「いままで人類が見た天体の中で最も小さな天体、言いかえると最もありふれた天体であり、大昔では、まだ太陽系が出来ていなかった頃の主役たち、その小さな天体の構造がわかり始めたということです」

「・・45億年以上前の大きな惑星が作りだされる基本ブロックであった微惑星の仕組みがようやく見えてきた・・仮説・シュミレーションでしか語られなかった事象が実際のものとして語れるようになったのです」

クレーターの無い、そして異なる2つの地形を持っていた驚きの小惑星イトカワ・・私たちは、はやぶさによって太陽系形成の知られざるプロセスを見る事ができたのです。

 

FRONT7 着地!

小惑星イトカワへの到達は、多くの科学的発見をもたらしました・・しかしプロジェクトの最大の目的は小惑星イトカワの欠片を地球に持ち帰るサンプルリターンです。

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サンプル採取の仕組みです。
1.着地した瞬間に機体から飛び出ているサンプラーホーンから弾丸が発射されます
2.イトカワの重力は地球の1/10万と小さいため破片は筒に沿って上昇
3.それをカプセルに取り込む計画です

2005年11月20日 着地ミッション
はやぶさとの交信は往復40分もかかるため地球から十分なコントロールは出来ません・・そのため最後は、はやぶさが自ら判断して着地を行います。

午前4時17分 地球からはやぶさへ着地のために降下せよと指令が送られました・・着地の直前、管制室でわかるのは地面からのはやぶさの高度だけです。・・順調に降下を続けるはやぶさ

午前5時50分 ついに高度ゼロ、着地です・・しかし異変が起きます。はやぶさの高度が下がる続けるのです・・イトカワの地面よりも下にもぐって行く様子が伝えられました。

「いったい何が起こっているのか」皆、頭の中が真っ白になりました・・

JAXA 宇宙科学研究所 矢野創 助教
「地面にどんどん深く、低くなっていくように見えます・・もちろん小惑星の中に潜って行く事はあり得ないので何か理解できない事が起きている事はわかるんですが」

JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
「焦るわけですよ・・これ見ているのは20分前の事ですから実際には過去の事です・・ひょっとしたらもうどこかにぶつかってるかもしれないし」

状況がわからないまま10分が経過、イトカワの地表の温度は100度と予想されていました・・地表にとどまっていれば熱で焙られ機体が壊れる事もあります。

このまま様子を見るか、それともサンプルの採取を諦めイトカワ離脱の指令を送るか、川口さんは決断を迫られます。

緊急離脱・・サンプルを採取する弾丸を打ったかどうかも分からないうちの決断でした・・これは数日後に送られてきた詳細なデータです。

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ここから着地時に何が起きていたのか真相が明らかになりました・・・
1.イトカワに着地を試みたはやぶさは、途中でバランスを崩し、イトカワに落下
2.更にバウンドを繰り返して予定していた着地点を大きく外れました
3.これがあたかも地面に潜ったようなデータの原因でした
4.はやぶさは機体を何度も地面に打ちつけた末、地表に30分間とどまっていました

結局、砂を採取する弾丸を発射してはいませんでした・・予想外の事態でうまくいかなかったサンプルの採取、周囲からはここで諦め地球への帰還を優先すべきだという声が聞こえてきました。

JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
「今なら帰ってもいいではないかと・・もうここで切り上げてしまって今変えれば機体は壊れているわけではないし、安全に帰れるかもしれないという事もずいぶん言われました・・しかし試料の採取を一番重きを置いていた譲れないゴールですよね」

JAXA 宇宙科学研究所 矢野創 助教
「やはり最後までサンプル採取に挑戦したい・・それこそが科学者たちの夢だったわけで我々はその夢を背負って運用して責任を負っているのでまだ探査機に力があるんなら挑戦したいと、やるべきだという主張をチームの中でしていました」

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チームはリベンジを決断、5日後に再び着地に挑む事にしました・・はやぶさは緊急離脱でイトカワから100キロも離れた場所にいました・・今度こそ確実に着地する為、プログラムの修正を行いました。

そして再びイトカワへ向かいます・・

2005年11月25日 着地ミッション(2回目)
2度目の着地の日、はやぶさは、イトカワの上空1キロから接近を開始、着地地点を目指してゆっくりと高度を下げて行きます。

午前7時4分 はやぶさは高度14mまで到達、いよいよ着地の態勢に入ります・・ここから先は、はやぶさが自ら判断して降下して行きます。

地球への帰還を考えるとこれがラストチャンス、管制室は緊張した雰囲気に包まれます・・そして20分後、高度計は、はやぶさが僅かに地面をかすめ離れた事を示しています。

午前7時35分 データが送られてきます・・『WCT』無事着地し上昇したというサインです・・管制室は歓喜に包まれます。

はやぶさは次の目標、地球帰還目指してイトカワを後にしました・・ところが誰もが思いもよらなかった事態となります。

1回目の着地失敗を受け、プログラムの修正を行った時にミスを犯していました・・弾丸発射前に安全装置が働いてしまい弾は発射されませんでした。

JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
「ショックなんてもんじゃないですよね・・信じられなかった・・もう言葉を超えて悔しさ、申し訳ないというその二言ですか・・・」

サンプルの採取に失敗した、はやぶさプロジェクト・・大きな目標を失いチームは重い失望感に包まれました・・。


FRONT8 はやぶさが消えた

残された目標は地球への帰還、しかしここにも重大な危機が訪れます・・機体の一部から燃料のガスが噴き出し機体の姿勢が乱れ始めていたのです。

原因はイトカワに不時着した時のあのアクシデントでした・・機体を地面に打ち付けたため一部を破損していました。

このまま姿勢を制御出来なければ太陽パネルを太陽に向ける事が出来なくなり、電力はいずれ枯渇、通信が不可能となります。

そして数日後、はやぶさからの電波は完全に途絶えます・・はやぶさは広大な宇宙で行方不明になってしまいました。

JAXA 宇宙科学研究所 國中均 教授
「まあ僕も含めて人心が離れて行きます・・オペレーションチームは船が無いわけですから仕事が無いわけですから・・プロジェクトとして成立しなくなってくるわけですから・・僕らの星を失ってしまったんだという断末魔の叫びみたいな感じです」

プロジェクトの打切りもささやかれる中、川口さんは諦めていませんでした・・

JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
「ここで終わるわけにはいかないとやれるだけの事やってみようと諦めるのは簡単ですけど・・あとで全く後悔しないようにしておきたかった」

行方不明とはいえ、はやぶさのおおよその位置は軌道計算から推定できます・・たとえバランスを失っていても太陽光パネルが偶然太陽の方向を向き電力が回復する瞬間があるはずです。

更にその時がアンテナが地球に向く瞬間と重なれば通信できるチャンスが生まれます・・これを逃さず地球から電波を送れば、はやぶさから応答が帰ってくると川口さんは考えました。

そこで考えうる、はやぶさの動きを計算し、たとえ一瞬でも通信が可能になる確率をはじき出しました・・その結果、1年間ひたすら指令を送り続ければ、はやぶさが応答する可能性は62パーセントまで高まる事がわかったのです。

川口さんが示した可能性は、メンバー達を動かします・・チームの総力を挙げて、はやぶさの捜索が始まります。

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広い宇宙に向けて休みなく指令を送り続けます・・はやぶさと交信するには電波の周波数が互いに一致していなければなりません・・しかし、はやぶさは一度電源が落ちると周波数の設定はずれてしまします。

そこで430に区分した周波数の全てに繰り返し電波を送り続けたのです・・行方不明のまま2005年は暮れてゆきます。

2006年1月23日 それは突然やってきました・・無数の信号の中にチームの呼びかけに応えた、はやぶさの信号が現れたのです。

更に新たな希望も見えてきます・・サンプル採取の担当者、矢野さんはある可能性を確かめるために岐阜県の山間に向かっていました。

はやぶさは、1回目の着地で何度もバウンドし30分間地面に横たわっていました・・これだけ時間があればイトカワ表面の微粒子が上昇してカプセルまで届いた可能性があると考えたのです。

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訪れたのはイトカワと同じ重力を作りだせる実験室です・・透明な筒をはやぶさの回収装置に見立ててどれだけ砂が跳ね上がるのか実験します。

するとたった100秒間で砂がカプセルの高さまで跳ね上がるのが確認できました・・はやぶさが着地していたのは30分間にも及ぶため砂が採取された可能性は十分にあります。

JAXA 宇宙科学研究所 矢野創 助教
「ボーナスです・・まったく想定外のボーナスです・・まったく予想してなかった出来事から希望が生まれてきたって事ですよね」


FRONT9 エンジン停止

軌跡の復活をとげた、はやぶさ・・しかし、トラブルの影響で計画は大幅に見直されます。次に地球に接近するタイミングに合わせ2010年6月の帰還を目指す事になりました・・そのため飛行は3年間も延長されます。

行方不明の危機を脱したはやぶさですが依然、姿勢の制御は出来ません・・宇宙空間では3方向に取り付けられたコマを回転させる事で姿勢を制御します。

しかし、はやぶさは3つの内、2つまでが故障していました・・このままでは地球への帰還が危うい・・担当を問わずメンバーが集められます。

最初にアイデアを出したのがエンジンの担当者です・・燃料を噴出すれば姿勢を制御できるというアイデアです・・しかし残りの燃料を考えると2つの方向の内、1つしか賄えない事がわかりました。

残り1つの方向をどうやって制御するのか・・ここでメンバーをアッといわせるアイデアが出ます・・白川健一さんが注目したのは太陽です。

太陽から降り注ぐ光にはごく僅かですが圧力があります・・宇宙空間では機体のバランスを崩す厄介者ですが逆手にとって姿勢制御に活かそうというのです。

すると結果は大成功、これで姿勢を制御する3つの方向、全てが制御できるようになりました

電気メーカー(NEC)技術者 白川健一さん
「この運用の場にいるといろんな方がいろんなアイデアを次から次に出してくる・・あわよくば川口先生が思いつく前に思いついてやろう・・まあ20年やっていて2回ぐらいしかないですけれども・・(笑い)・・それがいきごみみたいなものですかね」

また一つ危機をくぐりぬけたはやぶさでしたが帰還まであと7カ月というところで最大のピンチに見舞われます・・4つあるイオンエンジンが全て使えなくなったのです。

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当初は地球出発から4年で帰還するはずでしたがこの時すでに6年半が過ぎていました・・エンジンは寿命を迎えていました。

JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
「これで終わりかなと心の中では8割がたダメだと思っていました・・・」

絶体絶命と思っていた時、エンジンチームからまさかの隠し玉が出されました・・イオンエンジンはマイナスの電子とプラスのイオンを別々の出口から噴き出して合流させて初めてエンジンとして機能します。

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実は4つのエンジンの中には、プラスの出口だけが生きているものとマイナスの出口だけが生きているものがありました・・この生き残ったところを連動させる事が出来ればエンジンとして機能できるかもしれません。

実はチームは最悪の事態を想定し、2つのエンジンを連動させる部品を組み込んでいました・・長さ5センチ、重さ1グラム・・はやぶさは打上げるロケットが小さいため機体の重量を厳しく制限されていました。

トラブルに備える装備を充分積めない中、軽い部品でトラブルに備えていたのです。

JAXA 宇宙科学研究所 國中均 教授
「500キロの小型の探査機なもんですから新しい装置を追加したりする事は御法度・・決められた設計を壊さない範囲で工夫をして行かなければならないのです」

これでダメなら諦めるしかないエンジンチームの國中さんは最後のカードを切りました・・するとエンジンは見事復活、はやぶさは再び地球に向かって飛行を始めたのです。

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JAXA 宇宙科学研究所 國中均 教授
「みんなで考えるチームがあった・・出来たってことですかね・・何かあったらとにかくみんなで考えて突破して行く」

2010年6月13日 地球帰還
はやぶさは7年間、60億キロもの旅の末、地球に無事帰還しました・・そして午後7時51分、はやぶさはカプセルを地球に向けて放ちます。

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見事カプセルの切り離しに成功しました・・川口さん達は、あと3時間で燃え尽きてしまうはやぶさの為に特別な任務を用意していました。

それは地球の姿をはやぶさのカメラで撮影する事です・・

JAXA 宇宙科学研究所 川口淳一郎 教授
はやぶさに見せてあげたいということです・・はやぶさで撮影する・・はやぶさに地球を見せてあげたいという気持ちでした」

残り時間は2時間半、カプセル分離による機体の揺れを抑えながらシャッターを切り続けます・・そして8枚目・・ついに故郷地球をとらえたのです。

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はやぶさが持ち帰ったイトカワの破片は今、研究者が分析を進めており、驚くべき新事実が次々と発見されているのです。

■このはやぶさを題材とした映画が3本作られています。

 

 

 

 

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