WBS スミスの本棚
女優 吉行和子が薦める一冊『深沢七郎外伝』
女優 吉行和子
映画に舞台に幅広い役を演じてきた吉行、幼い頃から本で育ち、本を読む事が今も役を演じる力になっているという。…そんな吉行が推薦する一冊は 『深沢七郎外伝』。
小説『楢山節考』作家として知られる深沢七郎…その数機で破天荒な生涯を元担当編集者の新海均がまとめた一冊です。
女優 吉行和子
「深沢七郎に興味を持っていたのです。小説は『楢山節考』ぐらいしか読んでなかったんですが、とても不思議な人だなと思っていました」
深沢七郎(1914-1987)
日劇ミュージックホールのギタリストから小説家の道へ…しばらく放浪した後、自分で農場を開き自給自足の生活、深沢七郎は世間の常識や型にはまらない生き方を貫きました。
インタビュアー 森本智子
「本当にこういう方が存在したのかと疑いたくなるぐらいのいろんなエピソードが沢山あって、もし今生きていたらどういう存在になっていたのかなと思います」
女優 吉行和子
「深沢さんが今いらしたら、コロコロ変わる政権に対して絶対何かやらかすに違いないと思います」
深沢七郎は鋭い独特の言葉で社会の風刺を続けました。…日本初の原子力発電所、東海発電所の着工が始まった1960年には、こんな作品を発表しています。
原子力パン焼き機でパンを焼きながら
爺「なあ、婆さんやトースターが爆発して大都市が吹っ飛んだそうだ」
婆「あんれ、そんなバカげたことが?」
(中略)
婆「そんなら、おらの家の台所の下の引き出しの中の原子力発電所も、ひよっとしたら爆発するだんべか?」
爺「そんなこたアなかんべ、そう云うことがあったという話だわ、昔の人はよくホラを吹いたそうだからね」
女優 吉行和子
「この頃は原発事故を想像する人もいなかっただろうし、こういうふざけた書き方をする作家はいなかったでしょうから…去年の3.11以降、みんながハッと気がついた事がずいぶんあると思うんですね。ずいぶん鈍感になってしまっていた自分というのを思い知らされたみたいな気がしましたし、あの災害は何かを突きつけたと思います」
震災と原発事故を経た今だからこそ重みを増す深沢の言葉…吉行はこの本のサブタイトルとなった言葉にも強く惹かれました。
女優 吉行和子
「『淋しいって痛快なんだ』ってサブタイトルが気にいってしまって…いろんな事があっても ”痛快なんだ” と転化するのは正解だと思う」
苦しい事をそのまま受け止めエネルギーにして生きた深沢七郎、…。
女優 吉行和子
「どうしてもみんな世の中のせいにしたり、人のせいにしたりして不満ばっかり募ってきて自分の人生がしぼんでいっちゃう…一人一人が強くなっていかなきゃ駄目だとおもんです」
インタビュアー 森本智子
「どういう人たちに読んでもらいたいですか」
女優 吉行和子
「やはり若い人に読んでもらいたいですね…嫌な事が多すぎて…まあ事実そうなのだからしょうがないのですけど変えて行く力を持ってほしい…痛快に変えてほしいのです」
インタビュアー 森本智子
「私自身は深沢さんという作家を知らなかったんですが実際に読んでみてこんなに魅力的な方だったんだと改めて感じました。…表紙に ”死してなお伝説” とありますけが、亡くなってからますます存在感が大きくなってまして、常に先を読む目があった深沢さんが今、震災を乗り越えて行く私たちにどういうメッセージを発してくれたのか知りたいと吉行さんもおっしゃっていました」