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F1マシン、その変遷とドラマ…№6(革命が生んだ悲劇)

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F1マシン、その変遷とドラマ…№6
Lotus 78 革命が生んだ悲劇

レーシングカーデザインの基本知識として、マシンの下部に空気を流入させない事は常識とされてきた。
高速で走る乗用車では、現在でもその常識は生きていて、一般にスポイラーとかエアダムと呼ばれる、空気をはねのけるための板が車体前面下部に取り付けられることがある。…車体下部に前方から空気が入り込むと、圧力が高まって車体を押上げ、操縦安定性を失わせるからだ。

この常識を逆手に取ったのがコーリン・チャップマンであった。…彼は、車体後部を上手く成形して空気をうまく引き出せば、前方から車体下面に潜り込んだ空気は圧力を高めることなく流れ去る事を発見した。

そればかりか、彼はこうした対策を施しながら車体下面を逆翼状に成形すると高速で流れる空気が圧力を高めるどころか、逆に圧力を低下させる、いわゆるベンチュリ―効果が発生する事に気づいたのであった。

車体と地面との間に発生するこの現象を一般に対地効果、グラウンドエフェクトと呼ぶこともある。
この結果、チャップマンのアイディアを元にラルフ・ベラミーがデザインしたロータス78は、高速で走ると地面に吸い付く画期的なマシンとなった。

ロータス78は、1977年にデビューするや圧倒的な強さを発揮する事になった。…長らくF1グランプリに君臨してきたコスワースDFVエンジンは、フェラーリの水平対向12気筒エンジンに圧倒されようとしていたところだった。

それまでの常識を破って車体下面に大量の空気を流すアイデアは、V型8気筒のDFVエンジンにとって救いの神だった。
V型エンジンは、そのエンジンの両脇に空気を通すための空間を確保しやすいレイアウトである。

一方、フェラーリ水平対向エンジンは、空気が通るべき空間に、シリンダーブロックが寝そべっていたのだ。

ベンチュリ―効果を発生するデザインがなされたロータス78は、ただちにライバルチームの模範を生み出し、グランプリカーは、続々とロータス化することになる。
先駆者ロータスは、1978年に向けてアイデアを更に洗練した78の発展型79を投入してシーズンを席巻してしまった。
フェラーリへの敗北感に直面していたコスワースDFVユーザーたちが突然生き返ったのである。

1978年のロータスは、ほとんど敵なしの状態であった…第13戦オランダGPまでに№1ドライバーのマリオ・アンドレッティが6勝、№2ドライバーのロニー・ピーターソンが2勝を挙げ、追いすがるフェラーリカルロス・ロイテマンを凌いでドライバーズ選手権のポイント争いでも1位、2位うぃ占めて進撃していった。

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この間、チームロータスは、№1ドライバーのアンドレッティをチャンピオンにするために優先し、ピーターソンには、アンドレッティの支援に徹する事を命じていたという。…ピーターソンはその天賦の才には定評があり、いつチャンピオンになっても不思議ないと言われながらチームに恵まれず、不遇をかこっていた男だった。
彼にとってこの年のロータス入りは心機一転の好機であった。

それまでの無茶をやめて、ピーターソンは忠実にチームの方針を守った。…グランプリの秩序を守ればいつかはチャンピオンを狙うことができる、という事を悟ったのかもしれない。
この年、回り道をしたピーターソンにとっては、我慢の年であり、同時に準備の年でもあったのだ。

レースは第14戦イタリアGPを迎える…ピーターソンは、ブラクティスで自分の79を壊してしまったので、前年型の78に乗込んで決勝レースに挑んだ…そしてスタート直後の大事故に巻き込まれる。
ピーターソンの乗った78は車体前部を潰して火炎に包まれた。…幸いにもピーターソンは、両足に重い骨折を負ったのみで火炎からは救出されるのだが、その後運び込まれた病院で症状が急転、あっけなくその生命を落としてしまう。…骨折部位から併発した循環障害が死因であった。

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モノコックが強化されていた79に乗っていれば、ピーターソンはそれほどの重症を負わないで済んだかもしれないという指摘が事故後になされている。

その正否はともかく、グランプリカーの姿を一変させるキッカケとなったロータス78は、チーム内の秩序を守る事でやり直しを期していたピーターソンの生命を奪う事になってしまった。

グランプリカーと人間の、まことに不思議なめぐりあわせであるとしか言いようはない。 

 

筆者:大串信
この記事は、1990年3月号 Number239からの記事です…

 

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