NHK コズミックフロント
発見! 驚異の大宇宙 ”宇宙の終わり” に迫れ
”宇宙の終わり”
3つのシナリオ
1.ビッグ・クランチ
宇宙が縮む事によって一点に押しつぶされてしまう
2.ビッグ・フリーズ
宇宙はゆっくりと膨張を続けます…膨張が延々と続くとエネルギーがどんどん失われて行って最終的に温度が絶対零度まで下がります。全てが凍りつき、宇宙はその活動をやめ、静かな死に至るというシナリオです。
3.ビッグ・リップ
Ripを直訳すると ”引き裂く” です。このシナリオでは、宇宙は急激に膨張し、全てが爆発的に引き裂かれ、消滅します。
科学者が宇宙の終わりに付いて考え出したのは、今から80年前のことです。キッカケは、”宇宙には始まりがある” と分かった事からでした。
Front1
宇宙の「始まり」と「終わり」
ビッグ・クランチ
アメリカ・カルフォルニア州、発見の舞台となったのは、ウィルソン天文台…1929年、ここで観測していた天文学者、エドウィン・ハッブルが ”銀河がどんどん遠ざかってゆく” …つまり宇宙は膨張していたのです。
宇宙が膨張している…その事実は、宇宙に何らかの始まりがあった事を意味しています。…もし時間の流れを巻き戻せれば、宇宙はどんどん小さくなり、一つの点にまで行き着くからです。…それが宇宙の始まり、ビッグバンです。
ブリティッシュコロンビア大学 ゲリー・ヒンショー教授
「ビッグバンがある特定な場所で起こったというのは誤解です。ビッグバンというのは、空間も含めた宇宙全体の誕生を意味するからです。…そして現在まで宇宙は膨張し続けています」
誕生以来膨張を続ける宇宙、その勢いはいずれ止まるのでしょうか…だとしたらその原因は、重力です。無数に存在する星や銀河の重力によって収縮に転じて一つの点に潰れて終わる。…これがビッグ・クランチです。
アインシュタイン方程式
重力でつぶれる宇宙
重力で宇宙がつぶれると言い出したのがアインシュタインです。
これがその事を数式で表したものでアインシュタイン方程式と呼ばれています。この方程式は宇宙方程式とも呼ばれています。…これは物理の学生ですら大学院に入らなければ学ばないようなそんな式です。
簡単に説明すると…宇宙=銀河…すると宇宙は一点に収縮してつぶれてしまう。(チョットはしょり過ぎましたかね…笑)
しかし、当時、アインシュタインも含めて宇宙には、始まりも終わりもない…無限の過去から無限の未来まで変わらないものだと思われていました。
そこでアインシュタインはインチキをしまして…引っ張る ”重力に逆らう押す力 ”、宇宙定数ろいうものを無理やりひねり出しました。そしてこの宇宙定数を方程式の左辺に足したのです。…これで宇宙の形が変わらない、つぶれないとしたのです。
ところが10年後、エドウィン・ハッブルが宇宙が膨張している事を発見してしまったのです。…この報せを聞いたアインシュタインは、自らウィルソン天文台を訪れて、自分でも観測データを確認したのです。
そして宇宙は変化している…大きくなっていることを認めざるを得なくなったのです。…そして方程式に宇宙定数を入れて変わらない宇宙を作った事を後になって ”人生最大の失敗だった” と後に後悔したといわれています。
ビッグバンで始まった宇宙ですが…拡大がだんだんゆっくりになって…止まって、収縮し始めます…そして最後は、一点につぶれてしまうという答えが出る事になりました…それがビッグクランチです。
Front2
膨張が延々と続く、そして
静かな死「ビッグ・フリーズ」
そして科学者は、宇宙の膨張が次第にゆっくりになって行く様子を調べ始めます。…いつ宇宙が収縮に向かうのか…ところがその結果は全く予想に反するものでした。
方法は、1a型の星の爆発を観測し、そこから宇宙の膨張速度を割り出すのです。観測するのは超新星爆発、年老いた星が寿命を終えた時に起こる現象です。
この爆発の光が宇宙全体の膨張を図る目安になるのです。そして分析結果は驚いた事に膨張が遅くなっていなかったのです。…逆に早くなっていたのです。研究者たちは目を疑いました。しかし観測結果に誤りはありません。
宇宙を膨張させるエネルギーの存在がある事がわかったのです。…そのエネルギーは、ダークエネルギーと名付けられました。重力な逆らう未知の力、ダークエネルギーによって全く違うシナリオが浮上する事になったのです。
”重力に逆らう力” 引っ張る重力に逆らう押す力、…これってアインシュタインがした ”インチキ?” …そうです。宇宙が重力で縮むのを止めるためにアインシュタインが作りだした ”宇宙定数” です。
アインシュタインが自ら人生最大の失敗といって取り下げた宇宙定数は、ここで蘇ることになりました。ダークエネルギーという概念で蘇ったのです。
この宇宙の歴史を宇宙図で見てみましょう…。宇宙が誕生してからしばらくは、宇宙の膨張速度は、重力に引っ張られてだんだんゆっくりとなって行きます。…その後、70億年を過ぎたあたりで膨張の速さが加速し始めたのです。
(縦:宇宙の大きさ、横:時間)
何故か70億年を境に宇宙を膨張させるダークエネルギーが優勢になって膨張が加速し始めたのです。
この事により、『ビッグ・クランチ』の可能性がほぼ無くなりました…このまま膨張が加速すると『ビッグ・フリーズ』と『ビッグ・リップ』この二つのシナリオのどちらかになるのです。
Front3
「ビッグ・フリーズ」凍りつく宇宙
永遠に膨張を続ける宇宙、その先には暗く冷たい未来が待っています。地球は孤独な場所になって行きます。まわりの銀河がどんどん遠ざかって行くからです。
星は燃料を燃やし切って最後を迎えます。お互いに離れ過ぎているので残骸が集まって新しい星に生まれ変わる事もありません。
地球を照らす太陽も最終的には姿を消します。燃料を使い切った太陽は、徐々にその光を失います。そして地球は氷つき、全ての生命がその姿を消すのです。
数百億年後、夜空の星も消えて行きます。星や生命をはぐくんできたエネルギーは、全て無くなり、温度は絶対零度まで下がります。…そこにはもう、光も動くものもありません。完璧な暗闇と静寂だけが世界を支配するのです。
Front4
「ビッグ・リップ」引き裂かれる宇宙
ダークエネルギーの増え方が、あまりにも極端な場合、宇宙は壊滅的な結末を迎えます。…膨らみ方が暴走を始め、バラバラになってしまうというのです。
(縦:宇宙の大きさ、横:時間)
ダートマス大学 ロバート・コールドウェル教授
『…宇宙が急激に膨張すると星や銀河はどんどん離れて行きます…しかし、暗くなったり、凍りついたりするひまはありません。
星は砕け、原子さえも引き裂かれ、宇宙は終わりを迎えます。遠い未来、数百年後の話ですがこれが宇宙の運命なのです。…』
Front5
カギを握る宇宙初期の地図
『ビッグ・フリーズ』と『ビッグ・リップ』この二つのシナリオのどちらになるのか…それを知るには、宇宙誕生時にダークマター(引っ張る力・引力)とダークエネルギーがどのくらいあったのか…そしてその比率が今どの位なのかを知る必要があるのです。
宇宙の最初がどうだったかを知るには、宇宙の最も遠いところを観測すれば良いのです。…宇宙では遠くを見る事は過去を見る事です。太陽の光は地球まで8分かかります…つまり私たちは、8分前の太陽を見ているのです。
アンドロメダから地球を見ると250万年昔の姿、人類がまだ猿の姿をしているのが見えるという事です。そして地球から光の速度で138億年離れた所を観測すると、138億年まえの宇宙誕生の姿を観測する事になるのです。
ダークマター(引っ張る力・引力)とダークエネルギー宇宙の未来を決める二つの力は、宇宙誕生当時どれだけ存在し、今はどうなっているのか…。
2009年、その謎に迫る探査機(アリラン5ロケット)が打ち上げらてました。ヨーロッパ宇宙機関の探査機プランクです。プランクが観測したのがビッグバン直後に放出された光、宇宙マイクロ波背景放射と言われます。
全ての方角からやってくる、このビッグバンの名残をキャッチして、その温度を細かく計測します。これを平面に描きだすと宇宙が誕生した直後の地図ができます。
(実際の観測データから作り上げた138億年前の地図です)
赤い部分が平均より温度が高い、青は低いところです。温度の差が大きいほど、目に見える通常の物質が多い事を現します。…赤や青の塊はダークマターが多い事を現します。
スーパーコンピューターをフル稼働し、観測データを解析しました。
2013年3月21日、ヨーロッパ宇宙機関本部より、解析結果発表…
ダークマター:64%
通常物質:36%
ダークエネルギーは、殆ど存在していませんでした。
その後、宇宙は138億年かけて膨張してきました。しかし今の宇宙の大きさは、通常の物質とダークマターだけでは説明できません。宇宙が今の大きさなら、宇宙を膨張させる何らかのエネルギーが必要です。それがダークエネルギーです。
宇宙の誕生直後は、殆ど無視できる存在だったダークエネルギーが138億年を経て宇宙を支配する力となったのです。
(縦:宇宙の大きさ、横:時間)
探査機プランクが明らかにしたのが、宇宙誕生後38万歳の部分、そして138億年後の現在の部分です。実はこの2つの間には部分的にしか宇宙の歴史は分かっていません。
間、特に70億年前から現在までダークエネルギーが、どういうふうに増えてきたかの膨張速度を出さなければいけません。
気の遠くなるような作業です。
Front6
ダークエネルギーに迫る
ハワイにある日本のスバル望遠鏡、ダークエネルギーの謎を解明する計画が進められています。…銀河から放たれた光の波長を分析するのです。
(スバル望遠鏡)
宇宙の運命を日本のプロジェクトが解き明かそうとしているのです。
(解説:村山斉 博士)